「円周率割り切れる」「『ふいんき』正式語に文科省」。虚実のはざまを自由に行き来し、本当のようなパロディーを発信して読者を楽しませるウェブサイト「虚構新聞」。創刊20周年を迎え、その記事をリアルな壁新聞やスクラップで紹介する展覧会が東京・日本橋で開催されている。会場を訪ねてみると──。
2マスだけの将棋盤で向き合う王将と玉将。イラストの上に躍る見出しは「究極の初心者向け『2マス将棋』発売」とある。別の記事には「穴ずれパインアメ」の写真。真ん中の穴が特徴の黄色いキャンディーの製造中、穴がずれたのが希少価値を生み、「1.3億円で落札」という“ニュース”だ。「味は普通のパインアメだった」という落札者のコメントも載っている。
「穴ずれパインアメ」の記事(右)とパインアメ=中央区で
展覧会初日の5日に会場を訪れた都内の写真家、笑呆亭呆粋(しょうぼうてい・ほうすい)さん(47)は「1億円出そうと思っていたら1.3億円で落札されて悔しかったから見に来た」と、筋金入りの読者ぶり。虚構新聞について「虚実入り乱れる世の中で、嫌な思いをさせずに楽しませるのが良い」と魅力を語る。
会場にある巨大な「虚構壁新聞」=中央区で
虚構新聞の本格的な展覧会は3~4月に大阪で初めて開催され、今回、東京でも実現した。展示品のほとんどを制作した現代工作家ミズグチグッチさん(51)は「これを楽しめる生き方の人は何でも楽しめる」と語る。壁新聞は東京のみの特別企画で、ミズグチさんら6人のアーティストが壁にじかに書いた。「バウムクーヘン天日干しが最盛期」といったこれまでの人気記事が並び、記事の下にはうその書籍広告も。スクラップは自由に手に取れる。
虚構新聞は2004年3月、大学生だった滋賀県在住の「社主」UKさんが、個人のウェブサイトで、エープリルフールを前にうそのニュース記事を自作したのが始まり。甲子園球場にかつてあったラッキーゾーンから着想し、サッカーのゴールポストの両側下端をボール1つ分広げた「ラッキーゴール」を設置したという記事などを掲載した。
展示された虚構新聞の記事=中央区で
好評を得て3カ月後、独立したサイトを立ち上げ、以後20年、1人で続けてきた。現在、週1本ペースで新たな記事を公開している。本業は教育関係。虚構新聞はほぼ趣味で、稼ぐつもりは元々ないという。
記事が現実になる“誤報”も何度かあった。その一つが今回展示している森永製菓のチョコレート「GROS(グロス)」。13年7月、実際に販売されている12粒入りの「DARS(ダース)」をネタに、12ダースを意味するグロスを森永が発売すると書いたところ、森永が面白がって5日後、本当に限定販売を発表。UKさんは「おわび」を出すとともに販売場所に赴いて「謝罪」した。
記事に書かれたものを実体化した展示もある=中央区で
ここ数年、笑えないフェイクニュースも増えた。ただ、それらは「特定の政治的な誘導を目指している」とUKさん。虚構新聞でも政治ネタは扱うが「党派にかかわらず、みんながおかしいと思うネタ」を選び、個人攻撃にならないよう注意している。現実にならないスレスレを狙い、仮に見出しだけ拡散されても、うそと分かるような工夫もする。「目的は楽しんでもらうの一点。限られた人だけでなく、なるべく広く楽しめる内容を書いていく」
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虚構新聞展in東京~タイポニュースの時代中央区日本橋大伝馬町1の1、アートホテル「BnA_WALL」で24日まで。正午~午後8時(土日は午前10時から)。中学生以上1000円。チケットサイト「Peatix」での入場予約を推奨。16日午後5~6時に社主UKさんのトークショー、17日は午前10~11時、正午~午後1時、午後2~3時にサイン会がある。
◆文・神谷円香/写真・池田まみ
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「桃太郎、犬とキジを解雇」などの記事を集めた虚構新聞のスクラップブック=中央区で
展示されている虚構新聞社のデスクには社主UKさんの人形やお面もある=中央区で
展示について話すミズグチグッチさん=中央区で